エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「なんだ、芝浦か。お疲れ様」
「なにかあったのか?」

私がホッとした顔をしたからだろう。
不思議そうにする芝浦に首を振る。

「ううん。白坂くんが入社して以来、ここで女性社員と出くわすと色々聞かれて面倒な思いしてるからドキッとしただけ」
「ああ、給湯室、何人かでたまってることが多いからな」

「そうなんだよね。雑談場所になっちゃってるから、なかなか来づらくて」
「そういえば、最近は白坂が来てたけど……それ、新入社員の仕事なんだろ?」

カップを拭いている私を見て、芝浦が言う。

「別にそう決まってるわけじゃないよ。手が空いてるなら誰がやってもいい仕事だし。それより、給湯室に用事?」

経営企画部は三階で、ここは二階だ。
コーヒーなりお茶なりを飲みたかったとしても、それぞれの階に自販機と休憩スペースはあるはず。

だから不思議に思って聞いたけれど、そういえば、以前からここでよく芝浦と出くわしていたことを思い出す。

白坂くんが配属されてくる前までは、この作業は私か沼田さんの仕事だった。
沼田さん命名の〝給湯室シスターズ〟が会社を出たような時間帯を見計らってくると、結構な頻度で芝浦と一緒になり、そこで少し会話することが多かった。

どうしてだろう……と疑問に思っていると、芝浦は給湯室の壁に背中を軽く預けてから答える。

「三階の自販機にはブラックしかないから」

そういえば、食堂前には自販機が何台も並んでいる。二階の自販機に用があって通りかかったのか。

「ああ、コーヒーね。芝浦、微糖が好きだもんね」

理由がわかりスッキリして笑うと、芝浦は少し驚いたように私を見た。

「……よく覚えてるな」
「え? あ、コーヒー? うん。覚えてるよ。どこかに食べに行っても芝浦少しお砂糖入れるし。それに、缶コーヒーくれるときいつも微糖だから、好きなんだろうなって思ってた」

たまたま帰り道が一緒になったりしてコンビニによると、芝浦はついでに私のぶんも買ってくれる。
それがいつも微糖だった。

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