エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「別に。桜井、俺が怒るようなこと言ってないだろ」
「そうだけど、機嫌悪そうに見えたから。自分では気づかないうちに嫌なこと言っちゃったのかなって」
気を付けて発言したつもりでも、誰かしらを傷つけてしまうことはある。
だから言うと、芝浦は「そんなんじゃない」と否定したあとで、一拍置いてから続ける。
「ただ、桜井が俺が選んだものを気に入……いや、なんでもない」
言いづらそうに話し出した芝浦は途中で言うのをやめてしまう。
そんなことをされたら先が気になって、「なんでもなくてもいいから話してよ」とお願いしたけれど、もう話す気はないらしく「それより」と話題を変えられる。
「白坂。また噂になってたな」
さっきまでの落ち着きのなさも、もうその顔には残っていなくて、本当に教えてくれないんだなとわかり不満をため息で逃がした。
「ひどい振り方したって噂でしょ? 今日、本人に確認したけど、事実みたい」
芝浦が飲み込んでしまった言葉の続きはあきらめて、カップ拭きに戻る。
「せめて、相手が納得するように断れば噂になることもないのに」
「ね。芝浦みたいに華麗に要領よく断ってくれるといいんだけど」
「……それ、俺がひどいヤツみたいに聞こえる」
芝浦が苦笑いをこぼしたのが聞こえた。
「そうは言ってないよ。でも、谷川くんから聞いたから。芝浦は〝長年付き合ってる彼女がいるから〟って嘘をついて断ってるって」
でも実際は、社会人になってすぐ別れて以来、恋人はいない。
それは芝浦本人が言っていた事実だ。
……先週の飲み会では、好きな子がいるようなことは話していたけれど。
あれって、誰のことを言っていたんだろう……とうっかり考えてしまったせいで、鼓動がおかしくリズムを変えそうになるから「嘘も方便だね」と慌てて笑顔を作った。