エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「照明とか立地とか、説明すること全部に言われて……デスクでちょっと疲れた顔してたら、白坂くんがチョコくれたの」

閉店後、そのお客様との報告書を作成していた私の表情は誰から見てもおかしかったんだろう。
だからか白坂くんは箱に入ったチョコレートを私のデスクにすっと差し出した。

昔から人気のある、きのことたけのこの、たけのこの方だった。

『あのお客様、きのこ派みたいだったから。こっちすげー食って総選挙勝ってやろうかと思って。だからどうぞ』

一瞬、意味がわからなかった。
きのこ派……?と考えて、ピンときたのは、内見に向かう営業車の後部座席でお客様がおもむろに食べだしたお菓子だった。

普通、こんなときにお菓子を食べだすかな……と不快に思ったことを思い出す。

その時、運転してくれていたのは白坂くんだったから、お客様が食べていたお菓子をミラーで確認していたんだろう。
お客様が食べていたのは、たしかにきのこのチョコだった。

私の方をちらとも見ずにそう言った白坂くんの無表情な横顔をしばらく見てから、思わず笑いがもれたのは少し前のことだ。

白坂くんのあれはたぶん、励ましてくれていたんだろう。

内見は、勉強の意味も含めて白坂くんにも同行してもらうことが多く、そのお客様のときにもそうだった。
お客様と私のやりとりを一部始終見ていたわけだし、そのあと私が疲れた顔をしていたから気にしてくれたんだろう。

反省をした反面、嬉しさを感じた一件だった。


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