エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
その日、会社を出たのは結局二十時すぎだった。
一応、指導係として毎日報告書を部長に提出しなければならないのだけれど、それが結構時間がかかる。
ただ、その日にした仕事内容を記入すればいいわけではなく、私の感想まで書かなければならないのが困る。
週に一度なら成長もするだろうけれど、毎日となると前日と違う点を見つけるのは難しい。
夏休みの朝顔じゃないんだから……と、ぶつぶつ言いながら数行の感想を絞り出すことは、毎日の苦行だ。
対する部長は印鑑押すだけだからいいなぁと思う。
書くことに困るのは、白坂くんは仕事の面では優等生だから余計だろう。これが、問題児だったらきっとこんなに悩まなかった。
そもそもなぁ……と口を尖らせる。
たかが数年先に入社したってだけで後輩を指導するっていうところに首を傾げたくなる。
自分自身がまだまだ未熟なのに、偉そうに後輩指導なんて、と。
もちろん、右も左もわからない新入社員には色々教えてあげたいと思うのだけれど、指導係なんて任命されてしまうと、肩に力が入ってしまう。
でも現に、本店営業部女性社員の年長者は私だ。もっとしっかりしないといけない。
会社の前にはちょっとしたフリースペースある。広さは学校の体育館ほどだろうか。スクエア型のグレイのタイルが敷き詰められたスペースには、何本かの木と、石でできたベンチがいくつか置かれている。
誰でも利用可能なそこは、昼夜問わず何人か座って休憩していることが多く、今日もYシャツ姿の男性が数人確認できた。その手元では携帯の明かりが白く光っている。
飛行機の音が小さく聞こえ上を見ると、真っ暗ななかを点滅する赤いランプが動いている。すっかり夜の色を広げるそこに日中の名残は見つけられない。
それに比べ、空気はまだまだ熱を帯びていた。コンクリートからじわじわと熱が伝わってくるようだ。
動く赤いランプをただぼんやりと眺めていると「桜井」と呼ばれる。