エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「あれ。芝浦」
見れば、芝浦がこちらに歩いてくるところだった。
どうやら、ベンチに座っていた男性のうち、ひとりは芝浦だったらしい。
こちらに近づいてくる芝浦の顔は、なんだか少し疲れているように感じた。
そういえば、さっき給湯室で話したときもいつもより声が沈んでいたかもしれない。
「どうしたの?」
「別にどうも。俺も今まで仕事だったってだけ」
「仕事……」
「そう。これでも仕事量結構あるんだよ。重要なエリア任せられてから余計に。まだ調査段階だっていうのに、上は早く進めたいみたいで急かしてくるし」
やや沈んだトーンで話す芝浦に、それもそうか、と納得する。
芝浦は経営企画部ホープだし、私みたいに来る仕事をこなしていけばいいわけじゃない。企画力が問われる難しい部署で成績を残すのは想像できないほどに大変なことなんだろう。
しかも、上がそれだけ期待しているってことは失敗もできないしプレッシャーだってある。
そんな仕事を抱えているなら、疲れた顔にもなる。
「そっか……。お疲れ様。……それで、誰かを待ってるの?」
仕事が終わったなら帰って休めばいいのに、ここにいたってことは待ち合わせかなにかなんだろう。
そう判断して聞くと、芝浦は「桜井を待ってた」と答える。
「……え、私?」
「そう。昨日、ここから二駅のところで深夜に事件があっただろ。ひとり歩きの女性が襲われたってやつ」
「あー……あったね。女性が抵抗したから犯人は逃げたって話だけど」
会社の近くだな、と思いながら今朝ニュースを見ていたことを思い出す。
そういえば、部長も帰り気を付けるように言っていたっけ……と考えていると、芝浦が言う。
「それ聞いたら、なんとなく心配になったから」
なんでもないことみたいに、淡々と告げられた理由に、なんとも言えない居心地の悪さのようなものを感じ、なにも言えなくなる。
胸のなかに丸い石があるとして。その石の座りが悪くなってしまったような、そんな感じだ。