エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
恋の始まりにも似た、こんなむずがゆくなるような感覚、間違っても今までの芝浦と私の間にはなかったものだった。
ただの同期の間にあったらおかしいし、後々の面倒事の元になりそうでもあるこの感覚は、誰にも言っていないけれど最近たまに感じるものだった。
変わったのは私じゃなく、芝浦だ。
だって、今までだったら近くで事件があったって芝浦は〝心配だから〟なんて言わなかった。
優しさがなかったわけじゃない。
でも〝心配ないとは思うけど、桜井も一応女だし。暇だし送ってく〟ってニュアンスだった。
だから私も〝なに、一応って〟なんて笑って返していた。
それでよかったはずだ。
なのに……どうして〝心配〟なんて言うんだろう。
今までとは変わってしまった気がして、どんな顔をすればいいのかがわからず逃げるように目を伏せる。
「えっと……あー、だから終わりの時間を聞いたの?」
給湯室でのことを思い出し聞くと、芝浦は「そう」とこれも素直にうなずくものだから、ますますどう返せばいいのかがわからなくなってしまった。
これも違う。
いつもだったら〝もしかして、俺が待ってたって言いたいのか? 自意識過剰〟くらいの憎まれ口を涼しい顔して言うくせに、急にこんなのは……困る。
誰かとゲームでもしてからかっているんだろうか……という可能性も、芝浦の態度が変わってすぐの頃に考えたけれど、そんなことをするタイプじゃない。
そもそも、そんな暇人でもなければひどくもない。
でも、じゃあ最近のおかしな感じはなんなんだ、と頭のなかがグルグルしながらも、とりあえず……と芝浦を見上げた。
「ありがとう」
心配して待ってくれていたのは事実なんだから、とお礼を告げると、芝浦は「ん」とわずかに微笑んだあと歩き出す。
……いや、だから。なんだ、その反応は。
調子が狂いながらも芝浦の横に並ぶと、湿気を含んだ風がもわっと吹き抜けた。