エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

「昼みたいな風だな」
「ね。今からエアコンの入ってない部屋に帰るんだなーって考えただけで疲れる」

梅雨は明けたっていうのに、湿度はまだまだ高い。
一日閉め切ったままの部屋の不快指数はすごいことになっていることが容易に想像できて嫌になる。

「エアコン、入タイマーかけられるだろ」
「そうなんだけどね。なんとなく、空気入れ替えてからじゃないと落ち着かないし。帰って一度換気しないと、するタイミング逃しちゃいそうで。芝浦もひとり暮らしだったよね。いつもタイマーかけて出てきてるの?」

見上げて聞くと、首を振られる。

「いや、俺も同じ。閉め切ったままの状態からエアコンかけるのは気持ち悪い」
「なんだ、一緒だ」
「谷川なんかは、気にならないみたいで空気の入れ替えはほぼしないって言ってたな。夏と冬は気温の関係で閉め切ってるし、春は花粉で無理だから、秋しか窓は使わないって話してた」

谷川くんの無換気生活を「えー」と、非難しながら赤信号を前に立ち止まる。

横断歩道の前には、信号待ちをしている数人のビジネスマンの姿があった。
オフィス街だけあって、この時間でも通行人は少なくない。

「空気の鮮度が落ちるって説明しても、そんなわけないって呑気にケタケタ笑って気にもしてないし」
「谷川くんって、結構どんな場所でも生きていけそうだよね」

生活する上で細かいことが気にならないのは、ある意味うらやましいかもしれない……と考えていると、鞄のなかで携帯が鳴りだす。
芝浦に「ちょっとごめん」と告げてから画面を見ると、白坂くんからの電話だった。

「はい。どうしたの?」

白坂くんからかかってくる電話は100%仕事関係だ。
だから、今日一日の仕事内容を思い出そうと視線を宙に泳がせていると、芝浦がこちらを見ていることに気づき、「白坂くんから」と小声で教える。


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