エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
五年半付き合っていた元彼とは、円満に別れたと思う。
なんとなく相手の気持ちが私から離れていることには薄々気づいていたし、そこに焦りや不安を感じない程度には私も無関心になっていた。
好きか嫌いか、一緒にいたいのかどうかもわからなくなっていた。
だから、『別れよう』と口にしたのは相手だけれど、円満な終わり方だった。
そろそろだと思っていたから、驚きも泣きもしないで『そうだね』と返したし、微笑みさえ浮かべていたかもしれない。
それでも……それから一か月くらいは、毎朝起きるたびに、夜ベッドに入るたびに、〝ああ別れたんだっけ〟とわけのわからない寂しさが波みたいに押し寄せた。
もちろん、一年が過ぎた今はとっくに吹っ切れているし、なにかの拍子に思い出しても〝元気にやってるといいな〟くらいのものだ。
それなのに、今になって元彼とのことを思い出すのはどうしてだろう。
まだまだ次の恋愛なんていいと考えているのに、最近やたらと胸にある恋の引き出しがガタガタそわそわする。
「キッチンもついてるし、ここでも十分かもしれないなぁ。ひとつ前に見たところよりも広いですよね?」
部屋を見渡したお客様に聞かれ、手元の資料に目をやる。
「そうですね。前に見たお部屋が二十二畳、こちらは二十八畳になります。こちらは本来であれば事務所としての賃貸物件ではありますが、今回オーナーさんに事情を説明してみたところ、カフェとしての使用も許可してくださったので、水田様のご希望にも沿えるかと」
ビルの一階部分にあたる部屋は、そこまで広さはないものの、大通りに面しているし、駅が近いため人の足もある。立地的には悪くない。
水田様も気に入ったようで、数日中に返事をするという約束を交わし、この日は解散となった。
白い営業車の助手席に座ると、反対側から白坂くんが乗り込む。