エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない

そもそも、仲直りが必要な喧嘩でもなかったし……まぁ、いいか。どうせ芝浦だって拘っていない。

次会ったら普通に話しかければいい話だと片付け、さきほどの物件資料に目を落としていると、隣から白坂くんが話しかけてくる。

「あの部屋、カフェとして使用してもいいかどうか、桜井さんがオーナーさんにわざわざ確認とったんですか?」
「ああ、うん。広さも家賃もお客様からの希望条件を満たしていたし、もしかしたらオーケーもらえるかもしれないと思って。あの部屋はもう一年近く借り手が見つからない状態だったし、オーナーさんからしても誰かに使ってもらいたいだろうから」

「なるほど。結構、機転とか融通とか利かせなくちゃなんですね」
「そうだね。私も新入社員の頃、結構先輩からしごかれたけど……やっぱり経験がものを言うと思うから、なるべく内見の時にはついて回って場数踏んで、先輩が持ってるものを盗むのが手っ取り早いかも」

実際に現場に出るのが一番だ。
そう思い、「だから、時間があるときには私以外の人の内見案内もついていくといいよ」と勧めると、白坂くんは「わかりました」と答える。

「明日、ちょうど私休みだから。沼田さんか他の男性社員の内見について行かせてもらえるように頼んでおくよ」
「明日……ああ、有休でしたっけ。わかりました。よろしくお願いします」

顔や声に感情こそのぞかないものの、素直ないい子だ。
これで女性社員にもほんの少しでいいから優しくできたらなぁ……と考えながら横顔を眺めていると、白坂くんは「そういえば」と話題を変える。

信号が赤になり、車が静かに停止する。

「沼田さんから聞いたんですけど、俺の指導係って最初は他のひとの予定だったんですか?」

< 38 / 142 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop