エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
一瞬、どう答えようか迷った。
白坂くんの言う通り、最初は男性社員がする予定だった。
『男同士のほうがいいだろうし、誰か頼む』
でも、部長の言葉に手を上げるひとはいなかった。それは、単純に指導係なんて引き受けたら仕事量が増えるという理由もあったのだろうけれど、もしかしたら噂されていた白坂くんの立場も関係したのかもしれない。
それに、指導係を引き受けたところで出世にはたぶん関係ない。ただ損するだけの役割なら、誰も引き受けたがらないのは当然だった。
『申し訳ないが頼む』
それでも私はただのサラリーマンだ。部長に頭を下げられれば断れない。
そんな経緯を話したら白坂くんを傷つける気がして、言葉を選んでいると、沈黙を肯定ととった彼が「やっぱり」とつぶやいた。
「指導係なんて損な役割ですもんね」
「……そうでもないよ。誰かを教えるのは自分の勉強にもなるし」
「桜井さんはひとがいいから断れなかったわけですね」と、白坂くんが言う。
その横顔はいつも通り涼しいものだった。
感情が読めない。
「沼田さんが言ってました。『去年私の指導係をして、今年は白坂くんでしょ。二年連続指導係なんて相当負担なのに、桜井さん、結局面倒見がいいから引き受けちゃうんだよね』って」
「まぁ……単純な仕事量で言ったら増えるけど、沼田さんも白坂くんも要領いいしそこまでの負担じゃないから」
気を遣っていると思われたくなくて「今のは、フォローじゃなくて本音だからね」と付け足す。
それでも「はい」とだけ答えた白坂くんの横顔が疑っているように思えて、少し考えたあとで口を開いた。