エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「梅雨前と……秋口あたりかな」
この反省をもとに来年の計画年休について考えながら、なんとかフィルターを取り外し水洗いする。
余裕があれば換気扇も解剖しようと思っていたけれど、その計画は早々に却下する。無理だ。やめよう。次回かその次の有休でいい。なんなら年末で十分だ。
ベランダにフィルターをつるし、おでこに浮かんだ汗を手の甲で拭く。
水回りの掃除と、掃除機はもう済んでいるから、今日予定している残った作業は、食材の買い出しくらいだ。
この暑い中歩けばどうせ汗をかくだろうし、シャワーは帰ってきてからにしよう。
そんな計画をなんとなく決め、気合を入れなおすために「よし」と声を出し出かける準備にとりかかった。
インターホンが鳴ったのは、その日の夜だった。
まだ空には太陽の色が残る十八時半。
液晶画面に映った人物に、数秒驚いてから通話ボタンを押す。
「……芝浦?」
画面に映ったのは、Yシャツ姿の芝浦だった。
荒い画質ではあるけれど、間違いない。
「え。どうしたの?」
『メッセージ入れただろ。見てないのか?』
「え」
テーブルの上に置きっぱなしになっている携帯を見ると、小さなランプがチカチカと点滅している。
シャワーを浴びている間になにかしら受信したらしい。
「ごめん、気づかなかった」
『お使い頼まれて。依田さんってわかるか? 六十代くらいの、桜井が接客したお客様』
「ああ、うん。……あ、もしかして店頭に差し入れをもってきてくれたの?」
『そう。それでこれ』
芝浦がカメラに映るように紙袋を持ち上げる。