エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「私も、芝浦が当たり前みたいに洗い物始めてくれたの見て驚いてたとこ」
作業台やコンロを布巾で水拭きしていると、洗い物を終えた芝浦がタオルで手を拭きながら私を見る。
「俺も、桜井があんなに賑やかに料理するんだなって知って驚いてたとこ」
笑いながら言われ、ムッと口を尖らせてから、諦めて私も笑みをこぼす。
それを指摘されたのは初めてじゃなかった。
「それ、実は元彼にも言われたんだよね。ガチャガチャうるさくて落ち着かないって。自分ではちゃんとしているつもりなんだけど、どうしても慌てたりドジしたりでうるさくしちゃって」
『料理中、何度冷蔵庫を開け閉めするんだよ』とか『立てる物音がいちいちうるさい』とか、注意されることは多かった。
なかでも一番多かったのは『すぐ慌てるから音が出るんだよ』だ。
だから今でも気を付けてはいるつもりだけど、なかなか直らないのが現状だった。
オーブンの数字は、残り14分。淵の部分がグツグツと盛り上がってきていた。
カウントダウンをぼんやりと眺めながら「そんな耳障りだったかな」と独り言がこぼれる。
別に返事が欲しかったわけではなく、ただ無意識に出ただけだった。
けれど、ややしたあとで芝浦が「俺だったらそんなこと言わないけど」と返す。
私が隣を見ると、目が合うのを待っていたようなタイミングで芝浦が続けた。
「まず、うるさいとは思わない」