エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
……そして最後の富所様。
なかなか濃い一日だった。
グレイ色の天井をしばらく見てから、鞄のなかから携帯を取り出す。
今日は同期会の誘いがきていたけれど、どうにも行けそうもない。
もう十七時を回っているし、これから社に戻って書類やら雑用やらをこなさなければいけないことを考えると、十九時の飲み始めには間に合いそうもなかった。
それに、疲れてしまって無理して行こうとも思えない。
誰かに愚痴を聞いてもらうよりも、ひとりで静かに気持ちを落ち着かせたい気分だった。
いつもは手が伸びない、ちょっとリッチなデザートをコンビニで買って帰ろうかな。どこかのシェフが監修したような贅沢品がいい。ああ、それと新発売のミルクティーも気になるから、それも。
夕飯は冷凍パスタでいいか。
お風呂もちゃんとお湯をためて、お気に入りの入浴剤を入れてゆっくりつかろう。それでこの苛立ちを逃がそう。
今日はまだ水曜日だ。リセットして、あと二日頑張らないと。
そんなことを考えながら、今日は行けないという短いメッセージを作成して送信する。
そして、携帯を鞄に放り込むようにしてしまったところで、運転席のドアが開いた。
「エンジンくらい入れてくださいよ。死ぬ気ですか」
車内の温度に眉をひそめた白坂くんが、キーを拾いエンジンをかけ両側の窓を開ける。
それからエアコンの風量を調整するけれど、出てくる風はまだ熱風だった。
ビルの合間からオレンジ色の西日が照らしていた。
「これどうぞ」
言われたと同時に頬に冷たい物体をあてられ、慌てて背もたれから起き上がる。