エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
駅から会社までの間に、コーヒーショップがある。
数年前、海外からやってきたそのお店は、あっという間に全国に広がり今や店舗がない都道府県はないほどだ。
看板メニューはもちろんコーヒーだけど、豊富なメニューに加え、季節ごとに変わる限定商品もその人気を後押ししている。
通り過ぎる際になんとなく目をやれば、ガラスには〝あのミルクフラッペにマンゴー味が限定登場!〟という文字が躍っていた。
ミルクフラッペというのは、ジェラートをもっととろとろ状態にしたドリンクで、駅構内を数分歩けば、すれ違う誰かしらが手にしているくらい人気のものだ。
そういえば最近飲んでいない。
今日も残業になるようだったら買ってみようかな、と確認すると発売日には今日の日付があり、そのタイミングのよさに少し元気をもらいつつ、会社に向かった。
「吉田さんが自分から言ったんですよね? 『庶務に行くから、ついでにコーヒーの注文も俺がしておく』って。だから任せたのに、どうするんですか?」
沼田さんがなにやらきつい声を出しながら部署フロアに入ってくる。
そのすぐあとを歩いてくる吉田さんが浮かべている苦笑いを見て、ああ、またミスをしたのか……となんとなくの状況を悟る。
四十歳手前の吉田さんに、ミスをするとヘラヘラ笑ってごまかす癖があることは白坂くんでも知っている。つまり、それくらいミスが多い男性社員だ。
「でも、沼田さんもそれ以降、確認してなかったんでしょ? 俺だけの責任じゃないよね? ここはお互い様ってことで」
そそくさと自分のデスクに向かう吉田さんを、今度は沼田さんが追いかける。