エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「へぇ。そんなことがあったのか」
居酒屋のカウンター席。右隣に座った芝浦がやや驚いたような声で言った。
「うん。部署内の空気が悪いのは疲れるし、吉田さんがひと言沼田さんに謝ってくれるといいんだけど」
十九時過ぎに仕事を終えると、会社前のフリースペースに芝浦の姿があった。
「時間ある?」という誘いに乗り、いつも通りふたりで夕飯を食べる流れになった。
カウンター席と、テーブル席がみっつあるだけの店内は落ち着いた雰囲気で話しやすい。
カウンターの上には、適当に頼んだ和食を中心としたメニューが所狭しと並んでいて、それを箸でつまみながら芝浦が「領収書は?」と聞く。
「あー……うん。説明して通してもらうのも面倒だからって放っておいたんだけどね。沼田さんが自分が払うって言って聞かないから、半分出してもらった」
帰る直前のことだ。
部署を出ようとしたときに呼び止められ、千七百二十円手渡された。
マンゴー味のミルクフラッペふたつ分の金額だった。
『いいよ。私が勝手にしたことだし。それに、沼田さんは悪くないから』
『そんなこと、私だって思ってます。私はきちんと仕事しました』
『じゃあ……』
『でも、先輩に払わせるのはどうしても違うと思うし気持ち悪いので』
そんな口論が何度か続いたので、出した妥協案が折半だった。
『じゃあ、半分出してもらってもいい? ほら、私の案だし。沼田さんだって、こんなつまらないこと長引かせたくないでしょ。だから半額ずつ負担して終わりにしよう』
沼田さんは納得いかなそうな顔をしながらも、うなずいてくれて無事収拾したというわけだ。
「吉田さんはなにも言ってこなかったってことか」
お店イチ押しのつくねの串を食べながら芝浦が呆れたように言う。