エリート同期は一途な独占欲を抑えきれない
「桜井が来なかったときの?」
「……え?」
「桜井、残業になったからってドタキャンしてただろ。その時の飲み会がなに?」
いつも通りの涼しい顔で言われ、言葉を失う。
しばらくポカンとしてしまってから「あ、えっと……」と、髪を耳にかける。
私がこの話題を出したら、芝浦だってなにかしらリアクションはとると思った。でも、それは覚えていた上でのリアクションで……こういう返事は予想していなかった。
だから、今、こんなにもショックなんだろうか。
予想外のことを言われたから? 本当に、それだけ……?
ガラスを思い切り踏み抜かれたみたいな衝撃が広がり、その痛みにようやく自覚する。
私……私は――。
意識していないのに、戸惑いから笑みが浮かんでいた。
「なにも……覚えてないの?」
声が震えていた。
それでも重たくならないようにトーンに気を付けながら聞くと、芝浦は不思議そうな顔をする。
「覚えてないってなにが? あー……なんか変な酔い方したみたいで、気づいたら部屋だったから、そのへんの記憶はないけど」
そこで一度切ったあと「もしかして、なにかあった?」と私を見る芝浦に、スッと頭のなかが冷たくなっていく。
芝浦は嘘をついている。
『どんなに酔っても記憶なくしたことはない。全部覚えてる』
同期会で、いつかそう話したのは、他でもない芝浦本人だ。
さっき砕けたガラスの破片がパラパラと落ち、私のなかをそこらじゅう傷だらけにしていくみたいだった。
そうか……。嘘をついてまで、あのときの告白をなかったことにしたいのか。
理由はわからないけれど、なかったことにしたいってことは、相手を間違ったとかそんなところだろう。
つまり、告白は芝浦の本意ではないから、なかったことにしたいってことだ。
……でも。だったら、そう言えばいいのに。