独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
「真梨子さん、どうしたんですか?」

 真梨子は「ふふふっ」と声を出して笑ってから、目じりの涙を人差し指で拭った。

「やっぱり詩穂ちゃんにマッチングアプリを教えるのはやめておくわ」
「えー、どうしてですかっ。私、金曜日の歓迎会のあとで、元カレに再会したんですっ。元カレってば美人の婚約者を連れてたんですよ! だから、私だってステキな彼氏を見つけたいんですっ」

 本当はもう弘哉のことが理由ではないのだが、蓮斗のことを言うわけにはいかない。

「うーん、でも、やっぱり詩穂ちゃんにマッチングアプリは必要ないと思うの」
「必要あります。大ありです。だって、ぜんぜん出会いがないんですよ~」

 情けない声を出す詩穂に、真梨子はにっこり笑って言う。

「運命の相手は意外と身近にいるかもよ。さ、この話はもうおしまいにして、お弁当食べよ」

 真梨子はハンバーグを口に入れて「ああ、おいしい」と幸せそうな笑顔になる。

「詩穂ちゃんも食べてみる?」

 完全に話題を変えられ、詩穂は諦めて炊き込みご飯に箸を入れた。



 その日の夕方、啓一に頼まれていた特許庁のデータをプリントアウトして、彼のブースに届けに行った。その帰り、蓮斗に呼び止められる。
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