独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
 男性ならもっとがっつりした料理の方がいいだろうかと思ったが、蓮斗は頷いて答える。

「いいね。点心は久しぶりだ」
「よかった。実は私のマンションの近くなんです」
「大学時代の行きつけの店?」
「いいえ、二回しか行ったことないです」

 そのときエレベーターの扉が開き、ふたりで乗り込んだ。扉が閉まって下降し始め、蓮斗が言う。

「もう会社を出たんだから、普通にしゃべってくれないか?」
「普通ってどういうことです?」
「だから、それだよ、そのよそよそしい敬語。それをやめてくれってこと。土曜日、俺が余計なお節介を焼こうとしたから怒っているのか?」
「そうじゃないです」
「だったら、ふたりでいるときはタメ口で頼む。小牧に敬語を使われると落ち着かないんだ」

 私はタメ口を使う方が落ち着かないんだけどな、と思いながら詩穂はため息をついた。

「わかりました。じゃなくて、わかった。会社を出たら上司と部下じゃなくて、友達ってことですね」

 自分に言い聞かせるようにそう言ったのだが、なぜか蓮斗がムッとした表情になる。

「まあ、そういうことだな」

 詩穂が首を傾げ、蓮斗はふいっと横を向いた。

「……機嫌悪い?」
「別に」

 詩穂への返答も短い。
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