独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
「嘘だよ。キスする口実だ」
「誰かに見られたらどうするのよ!」

 詩穂はフロントガラスの向こうに目を走らせた。幸い、遠くで車が停まるブレーキの音がしただけで、近くに人の姿はない。

「今日、仕事のあとで行くからな」

 さっきは疑問形だったのに、今度は念押しできた。蓮斗のペースに流されているような気がするが、嫌じゃない。嫌じゃないどころか、くすぐったい気持ちだ。

「うん、いいよ」
「よし。それじゃ、仕事に行くぞ」

 蓮斗が言ってドアを開けた。詩穂も助手席から降りる。ビルに入るスチールドアを蓮斗が開けてくれたので、先に入った。地下からエレベーターに乗ったが、すぐに一階で停まった。ほかのオフィスの社員数人とともに、真梨子が乗り込んでくる。

「あら」

 詩穂を見つけ、続いて蓮斗を見て、真梨子がにんまりと笑う。

「おはよう、詩穂ちゃん。おはようございます、社長」
「おはようございます」

 詩穂と蓮斗が同時に答えた。三十五階に上がるまでの間、真梨子がずっとニヤニヤしていて、詩穂の頬が勝手に熱くなっていく。

「それじゃ、お先に」

 三十五階で降りると、蓮斗は先にオフィスに入っていった。あとから降りた詩穂に真梨子が並ぶ。
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