独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
「悪いな、ありがとう」

 蓮斗が歩いてきて、詩穂の前に立った。

「うん、あの、お仕事、がんばってください」

 詩穂はトートバッグを差し出しながら、普通のビニール袋に入れてくるべきだったと後悔した。案の定、西野が「あれ」と怪訝そうな声を上げ、トートバッグを受け取った蓮斗と詩穂の顔を交互に見る。

「西野、悪いがすぐ戻る」

 蓮斗は西野に断って、詩穂を外へと促した。

「ちょっとこっち」

 蓮斗が廊下を歩き、会議室のドアを開けた。電気をつけて詩穂に向き直る。

「せっかく料理して待っててくれてたのに、本当にごめん」
「ううん。私のことはいいよ。それより大変だよね。間に合いそうなの?」
「なんとかなることはなる」

 詩穂はホッと息を吐いた。

「よかった」
「でも、詩穂と一緒に過ごしたかった」

 蓮斗が残念そうに言って、ため息をついた。その表情がひどく疲れて見える。けれど、きっと西野の前に戻れば、またなんでもないような顔で西野の仕事を手伝うのだろう。

 詩穂の前だからこそ、蓮斗の素が出ているのかもしれない。

 少しでも彼を元気づけてあげたい。その思いに押されて、詩穂は思い切って蓮斗の腕を掴み、背伸びをして彼の唇に軽くキスをした。
< 144 / 217 >

この作品をシェア

pagetop