独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
「だから詩穂が邪魔になってそいつに辞めさせられたのか?」

 蓮斗の声に怒りが交じった。詩穂は苦い笑みを浮かべて首を左右に振る。

「ううん。私から辞めた」

 いくら説得しようとしても、弘哉は詩穂と別れることを頑なに拒んだ。そばにいなくなれば、もう弘哉も詩穂と関わろうとしなくなるのではないか。そう思って、弘哉が社長に就任したあと、会社を退職したのだ。

 だが、そのことは蓮斗には言わずにおいた。婚約者のいる男性と、そうと知ったうえで関係を持ってしまったことが後ろめたかったからだ。

「取引先銀行の頭取のお嬢さんと婚約したのは、経営危機の会社を救うためだったそうだけど、そういう政略結婚って小説やドラマの中だけの話だと思ってたんだ。それが本当に……しかも自分の身に起こるなんてびっくりだよ」

 そして退職して以来、ずっと求職中だ。

「二十七歳で資格もなにもないと、再就職にも苦労するね。親にも仕事を辞めたって言えてないし」

 詩穂は深いため息をついた。蓮斗が左手を伸ばして、そっと詩穂の頭に触れる。

「つらかったな」

 頭を撫でられ、詩穂は目頭が熱くなるのを感じた。それをごまかすように、そして蓮斗の優しい手から逃れるように、さっと背筋を伸ばす。
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