独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
 逃げ出そうかと思って、ぐっと踏みとどまった。

 詩穂はなにも悪いことはしていない。蓮斗がどういう考えであろうと、今、彼の恋人であるのは詩穂なのだ。

 詩穂は部屋の鍵を握りしめたまま、大きく息を吸って女性に声をかける。

「あの、うちになにかご用ですか?」
「え?」

 女性が怪訝な顔で詩穂を見た。詩穂はゆっくりと二〇〇一号室に近づく。

「その部屋には私も住んでいます。なにかご用でしょうか」

 詩穂は震えそうになる声を懸命に抑えながら、女性を見上げた。詩穂よりも十センチ近く背の高い彼女は、スラリとしていてハリウッド女優のように美しい。

「あなたが……蓮斗さんの新しい恋人ですか?」

 “新しい”という言葉が引っかかった。

 この女性は蓮斗の元カノなのだろうか。そういえば、蓮斗から昔の恋人の話を聞いたことはない。

 けれど、そんなことは今は問題ではない。

 詩穂は胸を張ってキッパリと答える。

「そうですけど」
「あら、そう」

 女性は気のない声で言って、ドアの方を見た。応答がないので、蓮斗は外出中なのだろう。

 女性の顔に余裕の笑みが浮かんだ。

「蓮斗さんはまだ戻ってないんですね。私、さっきまで一緒にいたんですけど」
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