独占溺愛~クールな社長に求愛されています~


 それから三十分ほどして、キッチンから蓮斗の大きな声がした。

「できた~!」

 詩穂は笑って部屋のドアを開けた。

「もう行ってもいい?」
「ちょっと待ってくれ」

 直後、冷蔵庫のドアを開けて閉める音が聞こえ、「もういいよ」と彼の声が答えた。キッチンに行くと、蓮斗がボウルや泡立て器などを洗っているところだった。

「じゃあ、ディナー作りに取りかかろうか」

 詩穂が冷蔵庫のドアに手をかけ、蓮斗が「開けるな!」と声を上げる。

「あ、そうか。開けたら見えちゃうわけだ」

 詩穂はカウンターに置かれているトマトを手に取った。

「じゃ、先にブルスケッタの準備をするね」
「頼む」

 詩穂はひとり暮らしを始めたときに買ったイタリア料理のレシピ本を広げた。そうして手順通りにトマトを湯むきして種を取り、サイコロくらいの大きさにカットした。それをボウルに入れて塩こしょうし、手でちぎったバジルの葉とオリーブオイルを加えて混ぜ合わせる。これをしばらく置けばケッカソースのできあがりだ。それから、バケットを一センチくらいの厚さにスライスしてこんがりと焼き、ニンニクをすりつけた。ソースをのせるのは食べる直前だ。
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