独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
 その友達は、詩穂が受賞した優秀賞より二つ下の奨励賞を獲得した。起業の夢は叶わなかったが、詩穂の受賞を自分のことのように喜んでくれた。

「そうだな。友達なら裏切らない。一緒に起業した友達は今でも大切な仲間だ」
「その点、恋愛ってホント面倒くさい……」

 弘哉から逃げるように退職したことを思い出しながら、詩穂は深いため息をついた。

「元カレを見返してやろうとは思わないのか?」
「見返す……って、彼よりもステキな恋人を見つけるってこと?」

 詩穂は視線を落として、弘哉の顔を思い浮かべた。起業に失敗し、就職先が倒産し、自分の人生にはいいことなんてなんにもないんだ。そう思っていた詩穂を、好きになってくれた人だ。彼の隣に居場所をくれたことが嬉しくて、一生懸命彼に尽くした。彼好みの清楚なファッションに、彼好みのナチュラルなメイク。本来の詩穂は清楚で控えめなタイプとは程遠かったけれど、弘哉が望むならと、そう振る舞った。

 今思えば、無理をしていなかったとは言えない。

 詩穂は首を小さく左右に振った。

「しばらく恋愛はいいかな……。なにより仕事を探さなくちゃいけないし」
< 23 / 217 >

この作品をシェア

pagetop