独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
 沈んだ気持ちでグラスにそっと口をつけた。視線を感じてふと顔を上げると、蓮斗が心配そうに詩穂を見ている。

「見返す……っていうのは、新しい恋人のことだけじゃなく、小牧がそいつと付き合っていたときよりも輝くって意味で言ったんだ。昔の……大学時代の小牧のように」

(大学時代の私……?)

 夢と希望に溢れていて、怖いものなどなにもなかった頃だ。不可能なんてなにもないのだと、根拠もなく信じていた。そして、その信念ゆえに無謀なことにも挑戦できた。

 そんな当時を思い出すと、甘酸っぱいような切なさを覚える。

「ああ、ごめん、湿っぽい空気にしちゃったね!」

 詩穂は過去を振り払うように明るく言って、グラスを持ち上げた。

「よし、今日を限りに弘哉さんのことを過去の思い出にするぞ! というわけで、景気づけに乾杯!」
「何回乾杯する気だよ」

 蓮斗は苦笑しながらも、ジョッキを持ち上げて詩穂のグラスにカチンと合わせた。



 そうして大学時代の思い出話や近況を肴に、会いたくなかったはずの蓮斗とおいしくお酒を飲んで、笑ってはしゃいだ。居酒屋を出たときには、詩穂はすっかりいい気分になっていた。
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