独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
 弘哉のことを思い出したのが嫌で、詩穂は顔をしかめた。

「どうした?」
「ううん、たいしたことじゃない」
「本当に?」

 蓮斗に顔を覗き込まれ、詩穂はフォークでグサグサとスクランブルエッグを刺しながら答える。

「んー……弘哉さんはコーヒー派だったなぁって思い出してただけ」
「昨日は過去の思い出にするって言ってたのに。まだ……吹っ切れそうにないのか?」

 蓮斗に心配そうに問われて、詩穂は首を左右に振った。

「正直、今、弘哉さんに再会して気持ちがぐらつかないかって訊かれたら、自信はない。でも、須藤くんに聞いてもらって、気持ちの整理はついたんだ。がんばってできるものかはわからないけど、もう二ヵ月も経ったんだから、絶対に彼のことは忘れる。彼のことを思い出すのはやめる」
「約束だぞ」

 蓮斗が右手の小指を立てて詩穂に向けた。

「うん、約束」

 彼の小指に詩穂は自分の小指を絡めた。子どものように指切りげんまんをして小指を離す。

「改めていただきます」

 蓮斗はスプーンを取り上げて、具だくさんのスープを口に運んだ。

「うまい」

 瞬時に顔をほころばせるので、つられて詩穂も微笑む。
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