独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
 蓮斗が苦笑する気配があり、詩穂はチラッと彼を見た。彼は笑みを噛み殺そうとするかのように口元を歪めていた。

「相変わらずだな」
「どういう意味よ?」
「無駄に強がりってこと」
「ほっといて」

 詩穂は黒いバッグを開けて、折りたたみ傘を取り出した。それを広げて差し、蓮斗の傘から出る。

「それじゃ、さようなら」

 蓮斗のいない方へと足を踏み出したとき、彼に右肘を掴まれた。

「なによ」

 詩穂が振り返り、蓮斗は小さくため息をついた。

「ちょっと付き合えよ。飲みたい気分なんだ」
「はぁ? なんで私が。須藤くんなら、声をかけたらすぐに飛んできてくれそうな女の子の知り合いが、何人でもいるでしょうに」
「そうでもないんだよなぁ」

 いつも強気だった彼が、珍しく気弱なセリフを吐いている。そのことが意外で、詩穂は思わず蓮斗を正面から見た。

「……なにかあったの?」
「なにかあったのは、小牧もだと思うけど」

 探るように見つめられ、詩穂はぐっと言葉に詰まった。

 詩穂は負け組。蓮斗は勝ち組。なにかあったのだとしても、話を聞けば余計に惨めになりそうだ。
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