独占溺愛~クールな社長に求愛されています~
「悪いけど、ほかを当たって」

 蓮斗の手を振り払おうとしたが、彼は詩穂の肘を離さなかった。

「当たれる“ほか”がないって言ったら、付き合ってくれるのか?」

 詩穂は蓮斗を睨んだ。淡く微笑んだ彼の表情が寂しげに見える。大学時代、男女を問わずたくさんの友達に囲まれていた彼が、そんな顔をするなんて……意外だ。彼の表情に、ずっと心の底に押し込めていた気持ちが、せり上がってきそうになる。

 私だって寂しい。

 詩穂は大きく息を吐いた。

「わかった。私も飲みたい気分だったし、そこまで言うなら付き合ってあげる」
「サンキュ」

 蓮斗が手を離し、ニッと笑った。

「でも、あんまり高級なところはやめてよ」

 詩穂の言葉に、蓮斗が首を傾げる。

「どうして?」
「どうしてって……」

 失業中で節約しなくちゃいけないのだと正直に話すのは、しらふではつらい。

 詩穂は口の中でもごもごと答える。

「こんな……地味なスーツだし」
「それじゃ、俺が行こうと思ってた居酒屋でいいかな? 学生時代に何度か行った店なんだけど」
「いいよ。この近く?」
「ああ」
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