揺蕩う空へ魔法の句を
その日の夜、私は寝付けなくて部屋を出た。そっと襖を開けると、義昭は縁側に座って空を見上げていた。
「義昭」
私は義昭の名前を呼びながら、襖を閉めた。
「お前…眠れないのか?」
義昭は私の方を振り向いて言った。無表情の瞳の奥には、寂しさが宿っている。
「…うん。義昭も?」
「俺は目が覚めただけだ」
義昭は、私がこの家で暮らし始めてから喋るようになった。まだ数日しか経っていないのに。
「……隣、良い?」
私はそう言って義昭の隣に座った。ふと義昭を見てみると、義昭は寂しそうな顔で空を見上げていた。
「…寂しいの?」
私が地面を見つめながら問いかけると、義昭は無言でこちらを見つめた。
「私もね。寂しいんだ…友達に会えないから。早く帰りたい」
「……俺は友達なんていない。家族も親戚すら居ない」
義昭が急にそう言い出した。珍しく義昭の表情が崩れる。
「俺は孤独だ。ずっと1人で過ごしていた」
「……じゃあさ。義昭、私と友達になろ」
私は無意識にそんな言葉を出していた。なぜ自分の口からこんな言葉が出たのか不思議で仕方ない。
「は?冗談はよせ」
「冗談じゃないよ。私も孤独だった時期があったからよく分かる。強がってるけど、本当は寂しいんだ…」
私は義昭に優しく微笑んだ。