Starry Night Magic
「まどか!」
君はビクリと肩を震わせ足を止めた。
なかなかこちらを振り返らない君に痺れを切らして、大股で君に歩み寄って正面へ回り込む。
屈んで覗き込むと、その表情は堅く強張っている。
俺は大きく息を吸った。
「結婚してくれないか」
君の表情が崩れて、瞳がぐらぐらと揺れ始める。
「まどかには精一杯夢を追っていてほしい。
でも俺たちは織姫と彦星にならなくてもいい。
引き離す神様がいる訳じゃない。
織姫と彦星にならない選択を出来る」
俺はまた大きく息を吸い込んだ。
「俺が仕事を辞めて、まどかの元へ行く」
仕事を辞めると言い出すとは思わなかったらしい。
君は大きく目を見開いて、驚愕の表情を見せた。
「バカだよ、私の収入なんて私ひとりが生きていくのがやっとなんだよ」
目の周りに力を入れて必死に涙を堪えながら、か細い声をさらに震わせながら反論する君を、俺はしっかりと芯のある声で封じる。
「もちろん働く。
俺のいる会社は世界でも進んだ技術を持ってる。
俺はそこの研究員だ。
俺を雇いたい会社は向こうにも必ずある」
むしろ転職先を探すより、今の会社を辞める方が大変だろうなと思った。
それなりに出世街道にいる。
仕事は楽しかったから真面目に働いていたら、いつの間にかそんな立ち位置を獲得していた。
そして漠然とこのまま階段を上っていくのだろうと思っていたし、そのことに不満は無かった。
充実しているとさえ思っていた。
でも君とそれを天秤に掛けた時、自分でも驚くほど簡単に捨てることが出来ると知った。
「ねえ……これ私の妄想じゃないよね、ほら私妄想得意だからさ」
目を泳がせて動揺する君を堪えきれなくなって抱きしめた。
こんなにも愛おしかったのか、自覚するとなぜ今まで抑えられていたのか分からない。
腕の中でまだ動揺して、小さく震える君を大事に抱きしめる。
そうして俺は君にとって駄目押しの一言を放つ。