Starry Night Magic
「アルコール飲料は0℃では凍らないんです。
なぜならアルコールの主成分はエタノールで、エタノールの凍結温度は-114.5℃だから。
エタノールの割合で決まるアルコール度数が高ければ高いほど、低い温度にならないと凍りません」
途端に饒舌になる彼に驚いたが、だんだん言いたいことは見えてきた。なおも彼は続ける。
「だいたいワインのアルコール度数は10~14度です。
アルコール度数15度のお酒の凍結温度は約-17℃、一般的な家庭用冷凍庫の温度は-18℃くらいだから、ワインは凍らせられるんです。
でもウォッカのアルコール度数は40度以上あります。
ウォッカは家庭用冷凍庫よりもよく冷える業務用冷凍庫でも、凍らせるのが難しいくらいなんです。
だからウォッカを凍らせることに関して少しでも言及した作品だったら、見てみたいと思って」
『凍ったウォッカ』。
その題名を聞いて私は、今度凍らせるのはウォッカなんだ、くらいの感想しか抱かなかった。
先輩たちはウォッカを選んだあの人は天才だとかベタ褒めだったけれど、やっぱりその良さは私には分からなかった。
しかし目の前にいるこの人は、同じ題名を聞いただけでもこんなにたくさんのことを考える。
持ち得る知識を最大限発揮して、私が想像も出来なかったような角度から物事を見る。
面白い。
彼の目を通すと世界はどんな風に見えるのだろう。
サークル内で賞賛される『凍ったウォッカ』の良さを理解出来るようになればいいなとは思っていたけれど、作った先輩の頭の中も、良さを理解できる先輩たちの頭の中も、全く気にならなかった。
でも彼の頭の中は出来ることなら覗いてみたい、と思った。