Starry Night Magic
面白いですね、そう彼に伝えようとした時、少し離れたところで誰かを呼ぶ声がした。
その名前に彼が反応したから、彼が呼ばれているのだと分かった。
今行く、そう言って彼は自分を呼んだ人の方に顔だけ向ける。
ハヤサカ、一度聞いただけだが、その名前はきっと一生忘れないのだろうなと感じた。
もう少し彼の話を聞いて居たかった。
名残惜しいけれど、もう引き止める訳にはいかない。
だけど、名残惜しさのあまりかこんなことを口走ってしまう。
「作中で本当にウォッカが凍ったかを確かめるためにも、是非上映会に来てください!」
少し図々しかっただろうか。
でもこの広い総合大学で、もう一度会うかどうかすら定かではない。
もうどうにでもなれ。
はにかみながら彼を見上げると、想像以上に優しい顔で笑う彼が居て安心した。
「分かりました、予定が無ければ行きますね」
その言葉とともに私に向けられた彼の笑顔を見た瞬間、一瞬だけ時間が止まったような感じがした。
私がもし映画でこの場面を演出するなら、周りの音を一瞬無音にすると思う。
世間的に見れば彼より顔のいい人は大勢居るだろう。
だから他の人にとってはなんてことない笑顔なのかもしれない。
けれど、当時の私にとっては、当時から現在に至るまでずっと惑わせ続けるくらいには、破壊力のあるものだったのだ。