Starry Night Magic
俺たちは横に並んで歩き始める。
側からみればカップルに見えるであろう俺たちだが、そういう間柄になったことは一度もない。
出会ってもう10年になるが、お互いそんな話を持ち出したことは無かった。
しかもこうして並んで歩くのも、ここ数年は1年に2, 3回程度になっている。
「飛行機何時だっけ」
ちらりと君を窺いながら言うと、君はピクッと肩を揺らした。
その反応に俺は懐かしさと違和感を覚える。
一瞬の間があった後に、君がこちらを見上げて言う。
「22時だよ」
作り笑顔を浮かべる君を見るといつも胸が痛くなる。
君は望んで海外に言った訳だし、きっと向こうでは充実した日々を送っているだろうに、帰りの飛行機の話をするといつも君は寂しそうな顔をした。
でももうそれは随分前、君が海外に住み始めた頃の話だ。
最近は日本を離れた生活にも慣れていたから、こんな反応を見せることは無かった。
珍しいなと思ったが、今回はいつもより日本滞在が長かったから、離れづらくなっているのかもしれない。
「じゃあ空港には19時半に着けば充分か」
俺の言葉に君は作り笑顔を崩さない。
「どっかで飯食って向かおうか、何食べたい?」
俺は君を喜ばせるための方法を探して、懐かしい記憶を掘り返した。
「最後の日本食、好きなもん奢るわ」
海外に住み始めの頃、帰る前は毎回俺が君に奢るのがお約束となっていた。
しかし何年かして、俺の仕事が忙しくなってまともに見送りに行けることが減った以来、いつの間にかそんなお約束は忘れ去られていた。
事の発端は、海外に移住する初めの飛行機に乗る君を空港まで見送りに行った時、余りに寂しそうにしている君を見て俺が「なんか奢るから元気出せ」と言ったことだ。
今から思えば、もう少し気の利いた一言が言えないものか、と自分に落胆するが、今の自分でも思いつけそうにない。
君は懐かしさを噛みしめるように目を細めて、口元を緩めた。
同じ笑顔でも、作り笑顔では無くなったのは確かだった。