Starry Night Magic
「うーん流石によく見えないかぁ」
展望デッキに到着するなり、君は落胆の声を漏らした。
やはり俺の予想した通り、空港の照明が明るすぎて1等星くらいしか見えないのだ。
もう殆どフライトが無くなった時間の展望デッキの人はまばらで、声の届く範囲くらいは人がいない。
君は居心地良さそうに両手を広げてふわりと一回転して、空いたベンチに座った。
少し遅れて俺も追いついて、君の横に腰を下ろす。
君は空を見上げたまましばらく黙っていた。
基本的に俺は口数の少ない方だ。
君が話題を提供しないと、俺たちの間には沈黙が流れる。
でもそれが不快だと思ったことは無かった。
しばらくして君が口を開く。
「私、しばらく帰って来られないと思う」
君がそんな風に口にしたのは初めてだ。
今までどれだけ忙しくても1年に1回は帰って来ていたから、わざわざ口にしたということはそれ以上は帰って来られないということだ。
「やっと新作のチームにお手伝いとしてじゃなく、正規メンバーとして入れてもらえるの」
確実に飛び上がるように嬉しいことなのに、君は信じられないくらい淡々と話している。
決まった瞬間に俺に報告しなかった、出来なかったのは、決まってからそれほどまでに時間が経つほど頭の中でいろいろ考えることがあったからなのだろう。
「だから今回はたくさんお休みをもらえたの」
なるほど。
君は日本に帰る日取りを俺に報告してくれた時に、今回長いね、というと、まあね、と言って深く理由を説明することはしなかった。
俺もその時は特に疑問に思わず受け流したのだが、確かに今思えば嘘の付けない彼女らしい誤魔化し方だったかもしれない。