Starry Night Magic
「しばらくってどのくらい?」
君の表情を窺おうと顔を横に向けたけれど、君は夜空から目を離そうとしなかった。
「まだ分からないけど、落ち着くのに少なくとも2年はかかる」
2年……
それは28歳の俺たちにとっては、重たい時間だった。
2年経てばお互い30歳になる。
俺たちのどちらかが結婚しているかもしれない。
ここ数年、同世代の結婚ラッシュが到来していた。
男の俺にとっては、まだまだ始まったばかりの結婚ラッシュだったが、女の君からすれば周囲の結婚ラッシュは俺より幾分か前から到来していたことだろう。
この年齢での2年という時間は、俺たちの曖昧な関係を壊すのには充分すぎるように思えた。
また沈黙が舞い降りた。
俺から話すべきなんだろうと思うけれど、言葉が見つからない。
……否、見つかってはいるけれど、君にとって必要な言葉であるか分からない。
君と過ごす時間は居心地が良すぎた。
壊れると確証のある2年という訳ではない。
2年後何事もなかったかのように、いつも通り俺が空港に君を迎えに来るかもしれない。
そんな関係をこの先もずっと続けて老いて死んでいってもいい。
それでも幸せだ。
決定的な一言を言って君を失うくらいなら、この絶妙な距離感も悪くない。
そうやってずっとずっと、決断を先延ばしにしてきた。
前にも同じような瞬間があった。
それは君が海外へ行こうと思うと俺に教えてくれた時だ。
君の口から聞いたのは初めてだったけれど、君が英語を勉強していたのも知っていたし、何に興味を持っているのかも知っていたから、海外へ行きたいと言い出すのは必然だと思った。
だから言われた時には、とうとう時が来たかといちばんに思ったのを覚えている。
その時も君は、今と同じように空を仰ぎながら話してくれた。
今日とは違って少し曇った昼間だったけれど。
漂っているのは全く同じ空気だ。