私が恋を知る頃に

碧琉side

キュッと俺の白衣握り静かに涙を流す穂海ちゃんの頭を撫でた。

昨日、佐伯先生の言葉に甘えさせてもらって休みを取り、朝少しだけ早く出勤すると、清水先生がまだ穂海ちゃんのそばにいてくださった。

事情を聞くと、穂海ちゃんは昨晩一度寝てみたもののやっぱり悪夢を見て目を覚ましてしまったようで、さらにその後もパニックを引き起こし意識を失ってしまったらしい。

清水先生が近くにいたことと佐伯先生も昨日は当直だったことで、処置はすぐに行われ大事には至らなかったものの、清水先生が穂海ちゃんのそばを少しでも離れようとすると泣き出してしまうようで、朝まで付き添ってくれていたみたいだった。

それから俺は清水先生から引き継ぎ穂海ちゃんのそばで様子を見ることにした。

しかし、普通に隣にいるだけの状態では穂海ちゃんが泣いてしまい、試行錯誤の結果穂海ちゃんを後ろから抱きしめる形で安定した。

その体勢が本人は1番安心するのか、比較的穏やかな表情で眠りについていた。

穂海ちゃんは、自分で自分を責め追い込むくせがある。

それはきっと、周りの大人たちに散々酷いことを言い続けられてきたからだろう。

"自分は悪い子"

"自分はいらない子"

そう言い続けられ、穂海ちゃん自身も自分にそう言い聞かせて来たようだった。

その言葉を言っている時、穂海ちゃんは酷く苦しそうで、これは俺の完全な予測だが、穂海ちゃんは自分に酷い言葉を言い聞かせることで理不尽な暴力や暴言を正当化してたのではないかと思う。

理不尽な暴力、暴言に理由をつけることで、心を平常に保とうとしてたのかもしれない。

でも……、だとしたら悲しすぎる。

穂海ちゃんは何も悪くないのに、酷い大人の勝手な事情で沢山傷つけられ、その挙句せめて心だけは平常を保とうと努力した結果、自分で自分を責めることを思いついてしまった。

それで、今もその後遺症に悩まされ続けている。

こればかりは、何度も逆に言い聞かせるしか解決方法はない。

悪い子じゃないんだよ、理不尽な暴力暴言に逆らっていいんだよ、誰にも迷惑なんてかけてないんだよ

きっと、これらの言葉を飲み込むのは苦しいだろう。

だって、それは今までの自分の考えを全て否定することになるから。

でも、そうしなければ穂海ちゃんの苦悩は消えない。

今は苦しいだろうけど、乗り越えてもらわないといけない。

ずっと涙を流し続ける穂海ちゃんの頭を再び撫でた。

頑張れ…

この葛藤を乗り越えた先にあるのはきっと明るい未来だから。

そう願いつつ、穂海ちゃんの涙を拭った。
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