私が恋を知る頃に
園田先生の自己紹介が終わり、最後に俺。

「じゃあ最後瀬川くん。」

「はい。」

佐伯先生に名前を呼ばれ、緊張しつつ立ち上がる。

「今回、担当医を務めさせて頂いています瀬川です。まだ、初期研修医の身で至らないところは沢山あると思いますが、清水先生にサポートをしてもらい、今回担当させて頂くことになりました。ふつつかものではありますが、全力で務めさせていただきますので、よろしくお願いします。」

何とか言い切り、少し胸をなでおろして席に座る。

しかし

「ん?研修医?なんで研修医が担当なの?」

ホッとなでおろした胸が凍りつく。

声の主は、麻酔科の杉山先生。

「あっ…えっと……」

「俺がお願いしたんだ。」

完全に焦って言葉を失う俺に清水が助け舟を出してくれる。

「瀬川くんは海外に留学に行ったことがあってね、そこで最先端の医療を学んできた。それに初期研修ももうすぐ終わりだし、他の研修医と比べてもやっぱり優秀だと判断したから俺がサポートについた上で任せてみたんだ。」

「…ふーん。まあ、楓摩先生がそう言うならいいけど。」

よかっ「でも、舐めた態度してたり使えないと判断したらすぐ切るからね。研修医くん。」

再び胸を下ろしたのもつかの間、杉山先生の鋭い言葉が胸に突き刺さる。

厳しい言葉だけど、全くその通りだ。

ここは患者さんの命を預かる神聖な医療現場。

一瞬の気の緩みが、判断ミスにつながり、直接命に関わる。

ベテランの先生たちからしたら、研修医なんて圧倒的に使えないだろうし、足でまといだろう。

でも、一度穂海ちゃんの命を預かった以上、研修医だからは通用しない。

穂海ちゃんからすれば、研修医の俺も、清水先生も等しく"医者"なのだ。

だから、俺は身分に甘えたようなことはしない。

行動の一つ一つに責任を持って、日々学ぶ体制を絶やさない。

こんなの、ベテランの先生たちからしたら当たり前も当たり前、常識だろう。

でも、俺たちはまだ未熟だから、それを常に意識しないとまだやっていけない。

だから、杉山先生の言葉は正しい。

少しでも気を緩めたら、俺たちはすぐにミスをしてしまうから。

だからこそ、誰よりも本気で全力で臨まないといけない。

覚悟はある。

「はい。覚悟はできてます。」

「…………」

杉山先生の目はまだ不信感でいっぱいだった。
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