私が恋を知る頃に
「はいはい、後輩いびりはやめてね~、本題に入るよ~」

佐伯先生の仕切りで、本題についての話し合いが始まる。

現在の穂海ちゃんの状態を鑑みた上での日程の調整、術前検査や術後管理、当日の流れ、実際の手術の手順など、カンファレンスは2時間にも及んだ。

「最後、何かある先生はいらっしゃいますかー、……特にいなそうなのでじゃあこれで終わりにします。お疲れ様でしたー。」

ふう、…かなり疲れた。

メモすることや課題も多くあって、しかも目の前の席の杉山先生からの目線が怖くて精神的にもかなり消耗した。

杉山先生は、パソコンを閉じるとさっさと帰ってしまい、少し安心する。

「ねえねえ」

「あっ、はい!」

完全に思考に気を取られていた。

えっと確か園田先生。

「ずっと気になってたんだけどさ、もしかして瀬川くんって星翔くんの弟?」

園田先生は目をキラキラさせて子どものような表情で聞いてくる。

「…そうです、けど……」

戸惑う俺を、気にする様子もなく園田先生はニコニコ嬉しそうに話し続ける。

「だよねえ!イケメンさんなところとかそっくりだもん!そっかそっか~星翔くんが言ってたのはこの子だったんだあ。あのね!僕、星翔くんとは仲良くさせてもらってるんだあ。ほら、精神科の中で小児って珍しいでしょ?だから、星翔くんが小児科から精神科に来てくれた時はすっっごく助かったし、嬉しかったんだあ!」

「そ、そうなんですか…」

あまりの勢いに圧倒されて、上手く言葉を返せずにいるとスクリーンなどの片付けを行ってくれていた佐伯先生が近寄ってきた。

「こらこら、瀬川くんびっくりしてるでしょ?それに、お喋りもいいけどこの後患者さんと面談なんじゃなかった?」

「あっ!そうだった!急がなきゃ!」

そう言うと、園田先生はぴゅっと片付けをして「じゃあね~!」と言いながら小走りで去っていった。

あまりの展開のはやさに脳が追いつかない。

「おーい、瀬川くーん、生きてる?」

「あっ」

目の前で手を振られて、正気に戻る。

「あはは、アイツ勢いとスピード凄くてびっくりするしょ?普段はふわふわしてるくせに、興味あることには勢いすごいから。」

佐伯先生は笑って話してくれる、どうやら割と長い付き合いのようだ。

「ちょっとびっくりしました。でも、とてもお優しそうな先生だな、と。」

「うんうん。あいつが優しいのには間違いないね。あ、あと杉山にいびられてたけど大丈夫?」

杉山先生のことを思い出し、少しだけウッと首が詰まる。

「ははっ、怖くなっちゃった?気にしなくていーよ。あいつ、楓摩取られて妬いてるだけだから。」

「へっ?」

予想外の言葉に素っ頓狂な声が出る。

「あいつ、楓摩のこと大好きなの。あ、恋愛的な意味じゃなくてな。杉山は俺らの大学の1個後輩でさ、イケメンだし身長も高いし、入試も主席で入ったらしくてモテモテだったのに、誰とも関わろうとしない一匹狼。なのに、ある日突然楓摩に"弟子にしてください!!"って来てさ、俺もう爆笑したよね」

そう言いながら、佐伯先生は当時のことを思い出したのか可笑しそうに笑う

「弟子って、楓摩は何かの専門家でもないしまだ学生同士で、その時初めて喋ったのに第一声がそれ。どこで見てたのか知らないけど、それ以来あいつは楓摩にメロメロでさ、小児麻酔やろうと思ったのも楓摩と関わりたいが故らしいよ。だから、あいつは楓摩が瀬川くんを認めて世話焼いてることにヤキモチ妬いてんの。」

さっきの毒舌な先生からは想像もできないおかしい話につい吹いてしまう。

「瀬川くん、これ俺が言ったこと誰にも言うなよ!杉山に知られたら絶対殺されるから!」

「はい笑」

佐伯先生はひとしきり笑ったあと、息を整えてから、いつもの佐伯先生に戻る。

「まあ、これからも難癖つけられるかもしれないけど頑張れ!あいつも園田も腕はいいから、穂海ちゃんのことは安心して任せてくれて大丈夫だから。」

先生の目は自信で満ち溢れている。

きっと、佐伯先生から見ても安心して任せられるメンツが揃ってるんだ。

「はい!ありがとうございます。頼もしいです。」
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