私が恋を知る頃に
時間も忘れ、どのくらいそうしていたのかはわからない。

バンッ

と突然開いたドアの音でふと我に返った。

振り返ると、そこには息を切らした碧琉先生の姿。

「穂海ちゃんっっ!!」

碧琉先生は、すごい勢いで走ってきて、そのまま私を抱きしめた。

「はぁ…はぁ……、よ、かった…心配、したんだよ?」

安堵の表情を浮かべた先生は、私を近くのベンチまで連れていき、座らせる。

どこかに電話をかけてから、先生は私に向き直った。

「…なんでこんな所にいたの?」

「…………なんか、眠れなくて…」

「…でも、どうして……こんな急に…」

碧琉先生の顔には明らかに、不安が浮かんでいる。

もしかして、私がここから自殺しようと考えてると思ってるのかな

「……外の空気、吸いたくて。…別に、死のうと思ってたわけじゃないよ。ちょっと外の空気吸いに来たら、景色が綺麗で夢中になっちゃった。」

そういうと、先生は安心したようにため息をついた。

「なんだ……、よかった。…でも、急にいなくなっちゃうから、すごく心配したんだからね?何も無かったから良かったけど、これでもし一人でいる時に急に具合悪くなったりしたら大変だし、みんなも心配するから、今度から、外の空気吸いたくなったら教えて?一緒に来よう?」

「うん」

それから、先生は思い出したように私に先生の着ていたパーカーを羽織らせた。

「寒さで風邪ひいたらいけないからさ。」

そう言ってパーカーを着せてから、碧琉先生は私がまだここにいたいのを察したのか、少し黙って隣に居てくれた。

それから、少しずつここから見える景色の話をしてくれ、あの大きな塔についても教えてくれた。

「じゃあさ、退院したら一緒にあそこ行こう?」

「えっ、いいの?」

先生の提案に私の心は舞い上がる。

「うん。でも、そのためにはまずは体治さなくちゃね。もう少し、頑張れる?」

…きっと、手術を怖がる私を励ますために提案してくれたんだ。

心のどこかで、もう手術を受ける以外の選択肢がないのはわかっていた。

だから、私は少し考えてから小さく頷いた。

まだ、本当は怖いけど、頑張らなくちゃ…

頷いた私の頭を、碧琉先生は優しく撫でてくれた。
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