私が恋を知る頃に
「園田先生、杉山先生、もう入って大丈夫だそうです。よろしくお願いします。」

そう言ってドアを開けると園田先生からノックをして穂海ちゃんに声をかける。

「穂海ちゃん、こんにちは。精神科の園田です。今日は急に来ちゃってごめんね。少しお話していってもいいかな?」

穂海ちゃんは恐る恐る小さく頷く。

「お部屋、お邪魔するね。」

「失礼します。麻酔の杉山です。今日は面談受けてくれてありがとう。怖いかとは思うけど少しだけお話させてね。」

先生方が部屋に入ってくると、やっぱり怖いのか繋いだ穂海ちゃんの手に力が入る。

「改めまして、園田と杉山です。今日は来週の手術に向けて穂海ちゃんとお話をしたくて来たんだ。よろしくね。」

園田先生の優しい雰囲気は空気を和ませる。

問題は杉山先生……

と思っていたが

「少しの間とはいえ、怖い思いさせちゃってごめんね。でも俺たちは絶対に穂海ちゃんを傷つけないから。穂海ちゃんが嫌な気持ちになるような言葉も言わないし、叩いたりするような暴力も絶対にしない。俺たちこの病院のスタッフはみんな穂海ちゃんの味方だから。これだけは信じて欲しいんだ。」

杉山先生の真摯な眼差しに、俺は少しだけ自分を責めた。

嘘偽りの言葉ではない、真正面から患者さんである穂海ちゃんのことを考えて向き合っていることが伝わる。

あんな短時間のカンファレンスで勝手に嫌な人認定してしまっていたけど、やっぱりすごい人だ。

この若さで麻酔科の専門を取れたのは、きっと生まれ持った才能だけじゃないんだろう。

後輩として学ばせていただくことが多すぎるくらいだ。

杉山先生のその言葉が届いたのか、穂海ちゃんは少しだけ警戒を解いたように握る手の力を弱めた。
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