私が恋を知る頃に

穂海side

目を覚ますと、またあの家

今回は冬の日の夢みたい。

冬の日は毎日凍えるように寒いから布団を被って何とか暖をとっていたのを覚えている。

今日はどんな嫌な夢だろう

怖いのに嫌なのに逃げられないから、ただ恐怖の時間を待っていることしか出来ない。

足音が聞こえてくる。

カツンカツンとヒールの音

お母さんだ。

ガチャガチャと乱暴に鍵を開けて帰ってきたお母さんは、とても疲れた様子でテレビの前の座布団に座り込む。

泣いていた。

お母さんの通った絨毯の上は涙のシミができていて沢山泣いてることがわかった。

「………お母さん…大丈夫?……泣かないで」

勝手に言葉が口から出てきて、手にはティッシュの箱。

ゆっくりと振り返ったお母さんの顔にはなんの表情もない。

「…………」

「…ティッシュ……使う?」

「…………………………。______さいな…」

「え?」

「…うるさいな…………うるさい…うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!!!!」

急に大きな声を上げるからびっくりして体が固まる。

「うるさいな何で私がこんな目に遭わなきゃいけない訳!!なんで私がこんなに辛い思いをしなきゃいけない訳!!!ふざけんなよっっっ!!!!全部アンタのせいだ!!アンタが産まれたから私の人生は全部狂ったの!!!!!!!!!アンタがいなければ!!!!アンタさえ産まなければ!!!!!!!!!!!!!!」

気付いた時にはお母さんに前髪を掴まれ壁に押し付けられていた。

「…アンタがいなければ……こんな惨めな思いしなくて良かったの…こんな最悪な生活しなくて良かったの……アンタがいなければ…アンタがいなければ…………私は幸せになれたのに………………。
………………頼むから…死んでくれよ……」

そう言って泣き崩れるお母さんを前にして私は何もすることが出来なかった。
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