私が恋を知る頃に
「穂海…ちゃん?」

ハッと顔を上げると、目の前には心配顔の瀬川先生がいた。

「…どうしたの、こんなに泣いて。怖い夢、見た?」

先生はそう言ってベッドに腰をかけてから背中を摩ってくれる。

ウウン

私は首を振った。

「じゃあどうしたの?何か痛いとこある?具合悪い?」

ウウン

先生、違うの、ごめんなさい、私が悪いの、私が悪いからそんな優しい言葉かけないで。

また余計に涙が溢れる。

そうだよ、なんで今まで忘れていたの。

私はこんなに優しくされていい人じゃないの。

私はこんなにいい生活を送っていい人じゃないの。

勝手に自分の中で履き違えていた。

理不尽な暴力に理由をつけていたのもある。

でも、それよりも前にちゃんとした理由があった。

私は悪い子だから。

やっぱり私は悪い子なの。

先生が優しさで私を肯定してくれたって、やっぱりずっと私は悪い子で、心のどこかで罪悪感を抱えていた。

でも、この罪の滅ぼし方がわからなくて、すごく苦しかった。

いい子になりたいのに、生きてること自体が罪だから、いい子になるには死ぬしかなかった。

でも死ぬのは怖かった。

どうしよう、どうしよう、どうしよう。

死ななきゃいけない。

でも怖いの。

死ぬのは怖いの。

死にたくないの。

息が苦しい。

息ができない。

ほら、また生きたいと願っている。

先生ごめんなさい、私、先生が思ってるようないい子なんかじゃないの。

ずっとずっと悪い子なの。

ごめんなさい。

ごめんなさい。

ごめんなさい。






私の意識は暗闇の中に引きずり込まれていった。
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