私が恋を知る頃に

碧琉side

いつの間にか寝落ちてたみたい、目を覚まして辺りを見渡すと、ベッドに寝ていたはずの女の子がいない。

やばい!と思って立ち上がるが、よくよく見てみると、病室の隅に布団があることに気がついた。

そして、布団の中で、何かがモゾモゾと動いている。

「もしかして、そこの角にいるの?」

そう言いながら、近付いていくと、布団が小刻みに震え出した。

……やばい、パニックにさせてしまったかもしれない。

これ以上近付いたらもっとパニックになるかと思ったが、でも今はそれ以上に女の子の様子を見ないといけない。

パニックで過呼吸を起こしているかもしれないし。

だから、俺は心を鬼にして布団をめくった。

案の定、女の子は俺を見た途端、さらにパニックになったようで、だんだん呼吸がおかしくなっていく。

「ごめんね、怖かったね、何もしないから、落ち着いてゆっくり息を吸ってごらん?」

そう声をかけるけど、必死すぎて声が届いていないようで、女の子は頭を手で守りながら激しく首を横に振って涙を流す。

「ぃゃ…………ぃゃ……………………」

小さな声でずっとそう言っているのが聞こえる。

このままだと、呼吸が止まりかねない。

そう思った俺は、ナースコールを押した。

「すいません、清水先生呼んで貰えますか?あと、鎮静剤と点滴もお願いします!」

「わかりました、清水先生もすぐ着くと思います」

看護師さんの宣言通り、何分もしないうちに鎮静剤を持って清水先生が病室に来てくれた。

「あらら、パニックになっちゃったか…。よしよし、辛いな~」

そう言いながらも、先生はテキパキと準備を進めていく。

「ごめんね、一瞬抑えるよ~」

俺は、女の子を固定して清水先生に合図を送る。

「怖いね、苦しいね、ごめんね、一瞬痛いけどこれしたら苦しいの無くなるから我慢しようね~」

注射を打った瞬間、女の子の暴れる力が強くなる。

「よしよし、痛いね、ごめんね~、もう終わるからね、大丈夫、大丈夫。」

注射を抜き、止血をするために固定を外すと、女の子はフラフラと立ち上がり、病室から抜け出そうとする。

でも、鎮静剤を打ったのもあって、病室のドアにたどり着く前に、女の子は倒れそうになる。

「危ないっ!!」

思わず、立ち上がったけど、間に合うはずもなく女の子は倒れて_____




「おっと、危なかった~」

床に倒れる寸前、女の子を清水先生が抱きとめた。

「ごめんね、まだ怖いよな」

そう声をかけながら、先生は女の子をベッドに寝かせる。

「瀬川くん、ガーゼちょうだい」

「あっ、はい!!」

あまりのスマートさに、呆気にとられ、少しぼーっとしてた。

俺は、急いでガーゼを清水先生に手渡す。

「ん、ありがと」

そう言いながら、先生はこれまた手際よく止血処置を行っていく。

「よし、終わり。よく頑張りました。」

そう言って女の子の頭を撫でると、そのまま俺のところに来て、俺の頭もポンポンと撫でていった。

「お疲れ様、ちょっと話したいことあるから、道具片して、点滴戻したら医局来て。」

「は、はい!お疲れ様でした!!」
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