私が恋を知る頃に
「お、おかえり、さっきはお疲れ様」

医局に戻ると、となりのデスクの清水先生が手招きしていた。

「お疲れ様でした、さっきは本当にすいません、俺何も出来なくて…」

「いやいや、全然大丈夫だよ、あの状況で俺を呼んでくれて薬の指示も出せたんだから初めてにしてはいいほうなんじゃない?」

「ありがとうございます…、でも、話って……」

「あぁ、それなんだけどね」

そう言うと、清水先生は立ち上がって、ついてくるように言う。

ついて行くと、誰も使用していないカンファレンスルームに連れてこられた。

「みんながいる所じゃ話しにくいから来てもらったんだけどさ、時間どのくらい大丈夫?」

「午前中は、全然大丈夫です」

「了解。じゃあ、話すか。あ、適当に座っていいよ」

お言葉に甘えて、俺は清水先生の隣の席に座る。

「んーと、あの子についてなんだけど……、今度、警察が来ることになった。」

「えっ」

「病院側が、事件性があるって判断して通報したみたい。まあ、通報するだけならいいんだけど、そしたら警察が女の子から直接事情聴取したいって、言ってるらしくてさ。俺も反対したんだ。あの子、まだまだトラウマが残っている状態だから、きっとパニックになって辛い思いをさせちゃう…って言ったんだけど、少しでいいからってきかないんだ。」

確かに、まだ俺たちにすら恐怖を抱いて会う度にさっきみたいなパニックを起こす今の状態じゃ、とても警察の事情聴取に耐えられるとは思えない。

「……それ、なんとか、出来ないんですか?」

「俺も、何とかしたくて今掛け合ってるんだけど…………時期は少し延ばしてくれるかもしれないけど、事情聴取はするって。……だからさ、女の子には辛いかもしれないけど、少しずつ俺らに慣れていってもらおうかなって。」

「……そんなこと、できるんですか?」

「うん、最初の方はきっと嫌がるし、パニックも起こすと思うけど、朱鳥も、この慣らす方法で少しずつPTSDを治して言ったからさ。」

そっか、前苑(…いや、今は清水か)も頑張ってたもんな……

「だからさ、精神科とも少し連携を取って治していこうと思うんだ。まずは、俺と瀬川くんに慣れてもらうのが当面の目標。」

「わかりました、精神科ってことは兄貴にも伝えた方がいいですか?」

「うん、そうだな。というか、星翔くんに診てもらった方がいいかな。お兄さん、小児科の経験もあるしね。」

そう、うちの兄貴 瀬川 星翔は、医師になったばかりの時は小児科で働いていたが、数年前精神科に転科した。

理由は詳しく聞いていないが、『心に問題を抱えている子供を救いたい』って言ってたっけな。

「わかりました、じゃあ兄貴に連絡しておきます。」
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