私が恋を知る頃に
ノックもせずいきなり入ってきた俺に、園田先生も穂海ちゃんも驚いた表情を浮かべる。

「せ、瀬川くん?どうしたの、急に。」

そう言われて、急に飛び込んだのは言いもののセリフを考えてなかったことを思い出す。

「あ…その………、お菓子、そんなに食べて大丈夫なんですか…」

無理やり絞り出して言ったものの、嫌な言い方になってしまったかもしれない…

穂海ちゃんだって、きっと甘いもの食べたいだろうし……あぁ、嫌な奴だと思われたらどうしよう…

「あぁ、これか。これは大丈夫だよ。ちゃんと、担当の栄養士さんと相談の上だから。ごめんね、瀬川くんに許可とるべきだったね。」

「い、いえ……」

顔から火が出そうだ。

カッコつけて言ったものの、全然見当違いだった奴みたいじゃん…

うぅ…恥ずかしい……

「…それより、本題はそれ?なにか、用があったんでしょ?」

そう言われて、ギクリとする。

伝えようと思って飛び込んだのに、今のところ滑って大恥をかいているだけの人になってしまっている…

ちゃんと言わなきゃ

園田先生には渡したくないから……

「あ、あの…」

「うん」

「穂海ちゃんを守るのは俺です。…ちゃんと約束だってしてるし。……だから、その…穂海ちゃんは渡しませんから!」

言い切った

でも、病室にはヤバそうな空気が流れている。




ぷっと吹き出す音が聞こえて、顔を上げると園田先生が可笑しそうに笑っていた。

「瀬川くん、心配しなくても僕は穂海ちゃんを取ったりしないよ。第一、今も相談に乗ってただけだし。ね。」

穂海ちゃんの方を見ると、穂海ちゃんは何故か顔を赤くして俯いている。

「ねえ、瀬川くん。言いたいこと、本当にそれだけ?病室出てるからあとはおふたりでどーぞ」

え、

戸惑う間もなく、園田先生はヒラヒラと手を振って病室を出ていった。
< 160 / 282 >

この作品をシェア

pagetop