私が恋を知る頃に
それから、退院の日はどんどん近づいていった。

日が進む事に、穂海の顔にふと影がさす回数が増えていく。

俺も、気が気でなかった。

「穂海、大丈夫?不安なことあったら、言っていいんだよ。」

そう言っても、穂海は首を横に振るだけ。

でも、とても寂しそうに俺の白衣の裾を握った。

「大丈夫だよ。3ヶ月したら迎えに行けるし、その前にも検診で会えるからね。」

…コクン

頷いてはくれるが、穂海の表情は晴れなかった。












そして、退院まで2日を切った日。

その日は、いつにも増して穂海の表情は暗かった。

朝から、既に泣きそうな顔をしている。

朝の診察を終えてから、ベッドサイドの椅子に座り穂海の頭を撫でる。

「穂海、どうした?不安、大きくなっちゃった?」

……コクン

小さく頷いたあと、穂海は静かに涙を流しはじめた。

「…退院、やだよ………」

その声は震えていて、不安と同時に退院に対して穂海が恐怖感を抱いてるのが感じられた。

俺は再び、穂海の頭を撫でる。

「本当はさ、退院ってすごくおめでたいことだよね。俺も、穂海の病気が治ってくれて嬉しいし、元気になってくれて嬉しい。…でも、俺もすっごく寂しい。会えない時間、穂海が元気で過ごしてるか、辛い思いしてないか不安だし、怖い。穂海も、そうだよね。」

コクン

「怖いし、不安だけどね、必ず迎えに行くから。だからさ、3ヶ月、長く感じるかもしれないけど一緒に頑張ろう。嫌なこととかあったら検診の時に逐一教えて?この期間を乗り越えたら、もう大丈夫だから。」

俺は、穂海に言い聞かせるようにゆっくりゆっくり喋った。

終わりのない闇はない。

きっと乗り越えられる。

そう信じることにした。
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