私が恋を知る頃に
とうとう、退院の日が来た。

10時頃に施設の人が迎えに来る予定だ。

朝、最後の回診に行くと、穂海は布団に潜っていた。

「おはよう」

そう言うと、穂海は布団から少し顔を出してこちらを見る。

「まだ、時間あるから大丈夫だよ。診察したいから、出てこれる?」

穂海は少し考えてから頷いて、布団を脱いだ。

表情は硬いまま。

かなり緊張しているのが伺える。

「…よし。大丈夫そうだね。体の調子はバッチリ。…でも、少し緊張してるね。」

固まっている穂海の背中を優しく撫でる。

「そんなに緊張しないで…って言いたいけど、緊張するよね。さっきも言ったけど、予定の時間まではまだ時間あるから、それまで少しでもリラックスしてて。」

……コクン

頷いたはいいものの、穂海の表情は変わらなかった。

「回診終わったら、また来るから。…緊張酷かったから、少し寝てたらいいよ。」

…コクン

そう頷くと、穂海はすぐにベッドに横になった。
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