私が恋を知る頃に
回診が終わり、清水先生と別れてから再び穂海の病室へ向かう。

寝ているかと思い、小さくノックをしてからそっとドアを開けると、穂海は起きていた。

「あれ、穂海寝てなかったの?」

「……うん。なんか、すぐ目覚めちゃった。」

そう言う穂海の目元は少し赤くて、泣いていたのかなと想像がつく。

予定の時間までは、あと1時間と数分ある。

それまでは、少しでも穂海の気を紛らわせてあげたかった。

ずっと、緊張して気を張っているのは疲れるだろうし、大きなストレスになるだろうから。

「ねえ、穂海。」

「…なあに」

「家帰ったらさ、何しようか。好きなところに行けるし、食べたいものも食べさせてあげられる。だからさ、何したいか考えない?」

まだ3ヶ月後の話だけど、きっと楽しい話の方が気が紛れるだろう。

それに、この3ヶ月間も辛い時少しでも楽しみな目標があった方が頑張れるだろうし。

「………碧琉くんのお料理食べたい。」

静かな間の後言われたのは、そんな言葉だった。

………はあ…可愛すぎるでしょ

そんなのいくらでも作るし、なんなら毎日作ってあげるのに。

「もちろんだよ。何が食べたい?リクエストしてくれたら、穂海が家に来るまでに頑張って練習しておくよ。」

そう微笑むと、穂海も微笑み返してくれる。

「私、シチューが食べたい。この前ね、初めて食べてすごい美味しかったから。」

「シチューね!わかった。じゃあ、一生懸命練習する。他には?行きたいところとか、ない?」

よし、いい感じ。

楽しい話で、穂海に笑顔が見れた。

緊張も上手く紛れているようだ。

「…碧琉くんと一緒に海行ってみたい。海、テレビでしか見たことないから。」

「そっか。じゃあ、一緒に車で海まで行こうか。海の近くに美味しいご飯屋さん知ってるから、連れて行ってあげるよ。」

「ほんと!楽しみだなあ」

徐々に穂海の笑顔が増えてきた。

こういう話は、穂海との会話も弾んで楽しい。

そして、時間はあっという間に過ぎていった。
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