私が恋を知る頃に
コンコンッ

「失礼します、僕、精神科の瀬川 星翔って言います。少し入ってお話聞かせてもらってもいいかな」

ドアを開けて、兄貴が女の子に問いかける。

「……………………」

でも、案の定返事はなくて、久しぶりにベッドの上にいたのに、すぐに布団を持って部屋の隅に行ってしまう。

「ごめんね、怖がらせるつもりはなかったんだ。何もしないし、何も持ってないから、少し顔見せてもらえないかな」

そう言うと、女の子は布団から目元だけを出して、こちらの様子を伺っている。

「ありがとう、お話したいだけだから、部屋に入ってもいい?」

「………………ぃゃ…」

蚊の鳴くような声で女の子は否定を示す。

「嫌か……どうしても怖い?」

コクン……と頷いて、女の子はそのまま下を向いてしまう。

「男の人が怖い?」

「…………んな…」

「え?」

「……みんな………………怖い…大人は……みんな……………痛いこと…するでしょ?」

そっか……女の子の中では、大人の人はみんな自分に痛いことをしてくる存在だと思っているんだ。

……でも、それもそうか…俺たちだって、いくら女の子のためとはいえ、女の子に痛い思いさせたしな…………

「見て?僕は何も持ってない、叩いたり蹴ったりもしない。痛いことされるのが嫌だったら、君に届かないように遠くにいてもいいんだ、それでもいいからお話、できない?」

「………………や、やめてよ…!!」

「………」

「もう、やめて、私に構わないで!!……いいから、帰してよ!!家に、帰りたいの!!!!」

初めて聞いた、女の子のここまで大きな声…

必死な顔してそう叫ぶと、女の子は布団に潜ってしまう。

「……ごめんね、話したくないのか。…お節介だったかな、でもね、僕は君がトラウマで苦しんでいるから、君にとって怖いことが無くなるように、お話し聞きたいなって思ってたんだ。……ごめんね、話したくなったら、また、教えてくれる?」

「…………………………」

「今日は、ありがとう、じゃあ、また話してくれる気になったら、来るね」

そう言って、兄貴が病室の扉を閉めようとした時……

「まって…」

女の子が口を開いた。

「まって…………………………わ、私…………私………………すごく…苦しい……話したら、これ、苦しく無くなる?」

「…うん。君が僕に話してくれるなら、僕は心の専門家だから、少しでも楽になれるお手伝いをしてあげられるよ。」

「…………い、いいよ……は、なし……………………聞いて……」

「うん、ありがとう」
< 17 / 282 >

この作品をシェア

pagetop