私が恋を知る頃に
「穂海っっ!!」
求めていた声に顔を上げると、焦った顔の碧琉くん。
「穂海、深呼吸だよ。焦らなくていいから、ゆっくり、ゆっくり。」
碧琉くんに促されるまま呼吸を整える。
「大丈夫だよ。上手に息できてるからね。」
なんでだろう、自分で落ち着かせようと頑張ったら頑張るほど苦しくなったのに、碧琉くんが声をかけてくれるだけですっと心が落ち着く。
…でも、自分で上手く対処出来なかったことが悔しくてまた涙が出た。
なんで、こんなに出来ないんだろう…
碧琉くんにちゃんと教えてもらったのに。
「車に乗るの、怖かったんだね。…ごめんね、知らなくて。」
職員さんがそう声をかけてくれる。
きっと、碧琉くんを呼びに言ってくれたのも職員さんなんだろう。
「…だい、じょぶです。こっちこそ、押しちゃって迷惑かけちゃってごめんなさい……」
ああ、また……やらかした
前の施設でもそうだった…
何をするにも私は人を怒らせてしまって……
「穂海」
名前を呼ばれて顔を上げると、優しい表情の碧琉くん。
「…大丈夫。誰も怒ってないよ。」
そう言って優しく頭をポンポンとしてくれる。
「……っでも、私…まだ病院の目の前なのに、もう迷惑かけた。時間も取らせちゃったし、押しちゃった。碧琉くんが教えてくれたことも上手く出来なくてパニックになって、また、私…」
そう言うと、碧琉くんは大きな手で私の頬を包む。
「だーめ。もうネガティブ禁止。…あのね、穂海。」
碧琉くんの真剣な眼差しに、怒られるのかと思って体が強ばる。
「みんな、穂海のことが大切なんだよ。俺はもちろん、施設の職員さんも穂海の事情を知った上で、穂海を守ってくれる。だから、トラウマでパニックになっちゃうのもしょうがないことだってわかっているから、誰も怒ったりなんかしないんだよ。」
そう言われて職員さんの顔を見ると、職員さんはニコリと微笑んでくれた。
「穂海が、他の人の視線をすごく気にしているのはわかるよ。他人にどう思われているか怖いよね。…でも、もうそんなに自分をネガティブに捉えないで。みんな、穂海を守りたいって思ってくれているし、穂海の力になりたいって思ってくれているんだ。それは、すごくありがたいことだよね。」
……コクン
「だったらさ、ネガティブに自分を否定するんじゃなくて、少しずつ出来ることを増やしていつか恩返しが出来るように頑張ってみるのはどうかな?」